ダロは歴史として人類が海の底へ生活の場を移した事を学ぶ世代。
ママとパパから溢れんばかりの愛情を受けて育ったダロ。
ダロは古代の地図でいうと旧地中海エリアの海底生まれ。
黒髪とキレイなビオラ色の瞳はママ譲り。
細身で長身なのはパパ譲り。
5人兄弟の末っ子。
一番上の兄は客船の船長で1年のうちを殆ど外洋で過ごす。
そんな兄が家に戻ってくるたびに話してくれる外の世界の話。
ダロはビオラ色の瞳をかがやかせて兄の話に聞き入ったもの。
ダロのパパは町で一番美味しいと言われる料理店のシェフだった。
そんなわけだからダロも食には深い思い入れがある。
やさしいママはいつも家にいてダロ達とパパの帰りを待った。
ダロが22歳になった時、彼は決心を固める。
住み慣れた町、涙があふれるほど大好きな両親家族の元。
それを離れて独りで外洋を越えてみることを。
ダロの決心の内訳は2つ。
一つはパパのようなシェフではなく料理店をマネージする学問を学ぶ事。
もう一つはママのような素敵な女性にであって恋する事。
ダロがやって来たのは古代最も栄えた王国だったといわれる大陸の下の海。
その大陸は古代の大きな戦争であとかたもなく崩壊したそうだ。
どんな人たちが暮らしていたんだろうかとダロはいつも考える。
もっとも、現在地上には大陸と呼ばれるような大きな陸地など皆無に等しいのだけれど。
その大きな海の底は古代の栄華を誇るかのように現在でも華やかな海都として知られる。
世界中の海からたくさんの人たちが集っている大きな街。
そこには数々の違った文化が持ち込まれている為、人付き合いには独特の特徴がある。
人々はお互いを尊重しあい、同時にあまり干渉せず適度な距離をおいて付き合うのだ。
挨拶には必ずキスとハグを、町中の皆がが家族のようにお互いを知っている。
そんなところからやって来たダロはこの街に中々馴染めなかった。
都会的な距離感は素敵だったけれど淋しかった。
1年に1度船長の兄がこの町にやってくるのを指折り数えて待っていた。
ダロはクッキングエコールでは常に素晴らしい成績で学長のお気に入り。
ある時、老舗料理店のオーナーシェフが新しくエノテカタイプの店を開いた。
その料理店オーナーとは古い知り合いの学長。
学長はお気に入りのダロがエノテカで働けるように取り計らってくれた。
ダロはその本店が大好きだった。
学生のダロにとっては非常な贅沢であるその料理店へは兄が連れて行ってくれた。
とても格調の高い店なのにパパの店にいるような暖かさが感じられた。
シェフの人柄とはこういう具合にその店に漂うものなのだろう。
料理も一言で形容するならば「やさしい」味だった。
ダロはいつか自分の町でこんな料理店を開こうと心から思ったものだった。
両親に似て、とても信心深いダロ。
毎晩ダロそのビオラ色の瞳を閉じる。
そして海の上のオレンジの月に祈る。
遠く離れた海に暮らす家族を思って。
まだ会ったことのない自分の夢の恋人を想って。