ゴールドの炎の反射 | チガウカラー by Seedless

チガウカラー by Seedless

「色」をテーマに短くて抽象的なストーリーを紹介していきます。
光の角度によって違う輝きをみせる玉虫色のようなストーリー。
読む人の心の状態によって印象がかわり、決して完結しないため、結論は読み手がそれぞれの創造を膨らませて楽しめるように。

kiniro sakana

木曜日は1週間のうちで一番心が浮き踊る日だと思う。 

翌日は金曜日で、仕事もなんだか金曜日モード。

そして48時間の週末がスタートする。

木曜日は一番想像をかきたてる日だ。

週末へ向かってスピードはどんどん加速している。

それからの数日間を思って色々と考えをめぐらせるのはとても楽しい。

黄金色のブラス楽器が炎の明かりに反射したゴールドの光。

目で受けるには痛いくらいの暖かい光を見るとじわっとした幸せを感じてしまう僕。

木曜日に感じるのはその幸せと同じカテゴリーの幸せだ。

個人的というか、自分の中でふと心が暖かくなる瞬間は非常に心地いい。

誰かに話した事があったがどうやら分ってはもらえなかったようだ。

胸のあたりが苦しくなるような切ない感じの幸せ。

幸せは必ず永遠には続かない。

一度あがったものは落ちなくてはならないのが自然の摂理だ。

だから人生はいつも不安定なバイオリズムを描いている。

全ての事象は陰と陽で形成されている。

そのどちらに焦点をおいて自分におこった事件を捉えるかは個人の自由だ。

願わくはいつも陽だと感じていたいがそこが人間そうは簡単にはいかない。

しかし待てよ、陽も陰も選ぶ必要性はどれほどあるのだろうか。

アヌカの頭の中はすごい。

おびただしい数のフィルターが設置されている。

どんな小さな事も逃さず各フィルターでキャッチしては分析にかける。

ハイテクの医療機器もびっくりの高性能フィルターだ。

しかも世界に一つしかない。

冷静に物事の本当の姿を見ようと目をこらす。

耳をすませ、感性を極限まで高めてその意味を探し始める。

アヌカの目は魔術師の目だ。

一度だけ同じような目をした女の子に会ったことがある。

彼女も魔術師の目を持っていた。

魔術師の目は深い暗緑色でけっしてにごりがない。

じっと見つめられると自分の頭の中も心の中も。

何もかもを見透かされているような気がしてちょっと怖くなる。

すると彼女は少し唇の端を上げて笑い、それを見た僕も笑う。

隠そうとしてもきっとアヌカは全てを分っていて何も言わないだけなのだ。

と思うと警戒心は途端に消え去る。

アヌカはとっても魅力的で不思議な女の人だ。

彼女は決して声を荒立てて怒ったりしない。

少なくとも僕の知る限りでは泣いた事も異常にテンションが高く上がる事もない。

常にバランスされた精神状態は一緒にいる者に安心感と畏怖をあたえる。

アヌカのもう一つの特徴は他人との距離だ。

彼女は常に絶対にクロスしない他人との一定の距離を持っている。

その距離は彼女に高貴さを与えた。

気品というものは他人に対する距離感が絶妙な時に生まれるものなのかもしれない。

どんな状況においても。

どんな選択を他人がしても。

それを受け入れるだけの度量があるからこそ一歩ひいていられるのだろうか。

アヌカは決して誰かや何かを否定する事も肯定する事もない。

アヌカはアヌカ一個人としてただそこに常に確固たるものとして存在しているのだ。

人間臭さを感じさせない。

やっぱり彼女は魔術師か何かそういった現実を超越したところに近い人のようだ。

未来を見とおす力なんかもあったりするのだろうか。

いや、多分それはないだろう。

たとえそんな能力を持っていたとしてもアヌカがそれを駆使するところなんて想像出来ない。

アヌカにとって将来何が起こるかを事前に知る事は価値のないことなのだ。

これから何かが起こる。

それを事前に知ることによって人は本当にはどうしたいのだろう。

天気予報、株価予想、占い、予言。

未来を知る事によって一体どんな恩恵がその人にあるのか。

現世的な利益は勿論あるだろう。

でもそれはエッセンシャルなものだろうか。

アヌカはきっとそんな事に興味はない。

そんな静かな湖のような心を持つアヌカ。

アヌカもゴールドの炎の反射を見て幸せだと感じたりするのだろうか。

アヌカは特別変わった生活をしているわけではない。

アヌカは北欧の家具をあつかうショップのマネージャーだ。

サラリーマンの出勤時間よりは多少遅く出る出勤する。

ほうきに乗ってではなく電車をつかって出勤している。

不思議な魅力を放つアヌカ。

アヌカの働く店の入ったショッピングモール内で働く男性達。

彼らの間で静かながらに注意を集めているアヌカ。

アヌカが外部と自分を常に一定距離に保つことから醸し出される気品。

それに負けて誰もアヌカに声をかけられないでいる。

でもそれでいいのだ。

アヌカは自分を良く知っている。

そしてアヌカにとって価値のあるものを知っている。

アヌカが欲しいと思っているものをも良く知っている。

アヌカの孤高な雰囲気に尻込みしてしまうような人物。

彼らはつまりはアヌカに望まれていない者達なのだ。

アヌカは何も言わずして、自分の欲しいものを表現する。

アヌカには物事の陰も陽も同等の価値を持ったものと映るのだろう。

アヌカにとって、常に陽であること、陰であること、

そんな物事の基準判断は何の意味をもなさない。

アヌカの生きるアヌカの世界には浮き沈み、上下、

そんなふうに相反するものの存在が皆無なのだ。

すべては中庸なのだ。

だからアヌカには僕のように特別な日は1週間のうちにないのだろう。